いまさら聞けないCX・・・戦略的にCX向上を実践するポイントを解説!

article_015_main いまさら聞けないマーケティング用語

CCM LABOがカスタマーコミュニケーションの観点でマーケティング用語を紐解く「いまさら聞けないシリーズ」。今回のテーマはCXです。CXの定義と重要性、戦略的にCX向上を実践するためのポイントを解説します。

いまさら聞けない・・・CXとは

CXの定義

CXとはカスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)の略で、「顧客体験」のことです。商品を利用した時に私たち消費者が感じる価値は大きく分けて2つあります。合理的価値と感情的価値です。

合理的価値

合理的価値とは、機能・品質といったその商品を使用することで得られる便益のことです。100円のペンから20万円のスマートフォンまで、商品を購入する時、消費者はその商品を具体的な用途で必要としています。頭の中にあるアイディアを紙に書いておきたい、家族や友人とチャットアプリでコミュニケーションを取りたい、といった具体的な用途です。その必要性を十分に満たすことができた時、消費者は合理的価値を感じます。

感情的価値

感情的な価値とは、名前の通り、消費者の感情を動かすような価値のことです。五感に訴えかけるような洗練されたデザインの商品、生産者のこだわりに思いを馳せて知的好奇心が満たされる商品、使用する時間が生活の一部になることでライフスタイルが変わるような商品。そういった商品の機能とは異なる要素によって生活の中で感じる喜びが増える時、消費者は合理的価値とは別に感情的価値を感じます。

消費者は合理的価値と感情的価値を合わせた総合的な価値で商品を選択します。自社の商品を選択してもらうためには、優れた機能という合理的価値を追求するだけでなく、より良いCXによって感情的価値を高めることが重要です。

CXの例

商品の機能だけでなく商品を使う体験を優れたものにすることでイノベーションを起こした会社の代表例はやはりAppleでしょう。

Appleが初代Macintoshを発売したのは1984年でした。発売2日前に放映したテレビCMはAppleを象徴するエピソードとして今でも語り継がれています。

アメリカで特に人気の高い、全米フットボールリーグ(NFL)の王座決定戦、通称スーパーボウルの広告として放送されたそのCMは次のようなものでした。 (アメリカでスーパーボウルといえば、視聴率40%を超える国民的イベントです。)

1人の女性が無表情な男たちの間を駆け抜け、独裁者の演説が映し出されたスクリーンに向かってハンマーを投げて、爆発を引き起こす。

当時まだ大企業ではなかったAppleが巨額の広告費かけて放映したたった一回のテレビCMは、機能や品質の違いを謳ったものではなく、既存の市場に対して革命をもたらそうとする自社の哲学を人々の心に強烈にアピールするものでした。

今から約20年前にAppleが日本に進出した際にも、他社のデザインと一線を画す、パソコン本体とモニターをカラフルでスケルトン(半透明)な筐体で一体化させたiMacを発売し、人気を集めます。

日本でiMacがヒットした事例をCXの観点で論じるなら、「合理的価値の比較だけではなく、iMacを所有することに感情的価値を感じるようなデザインという仕掛けによってヒットにつながった。」と説明できるでしょう。

今でも、新しいバージョンが出るたびにiPhoneを買い替えて最新のデバイスを使っているという興奮を楽しむ人が多くいます。また、アメリカでは仕事用のパソコンとしてMacを選択できるようにしたことで、従業員満足度が上がったという例もあるそうです。

少し話が逸れますが、企業間の取引においてもCXは重要です。同じ内容、同じ金額の提案があった場合、つまり合理的価値が同じであった場合には、これまでの取引で醸成された信頼や、自社のことをよく理解してくれていて、依頼内容を正しく、正確に理解してくれるコミュニケーションコストが低い企業が選ばれます。

合理的価値を提供するだけでなく、その周囲にあるCXをより良いものにすることで感情的価値を高めることが、選ばれる企業になるための必須条件とも言えるのです。

CXの向上を戦略的に実践する方法

ここまでは良いCXによって感情的価値を高めることの重要性について解説してきました。では、具体的にどのようにすれば戦略的にCXの向上に取り組むことができるのでしょうか。

それは、自社が提供するCXを定量的に管理できるようにすることです。

体験自体は目に見えません。しかし自社が提供したCXを顧客がどのように受け取ったかは定量的に測定できます。戦略的にCXを向上させるために、CXを定量的に管理する2つの指標を解説します。

CXを定量的に評価する「ネットプロモータースコア®︎」

ネットプロモータースコア®︎は、定性的で目に見えない顧客体験の良し悪しを数値化するものです。従来は膨大な項目のアンケートによって顧客満足度を測定する企業も多くありましたが、ネットプロモータースコア®︎は極めてシンプルな2つの質問によって調査することが可能です。

ネットプロモータースコアを測定するための2つの質問

Q1「この商品を友人や同僚にお薦めしますか? 0~10の11段階でお答えください」

Q2「その理由を教えてください」

自分が使った商品を他人に薦めるというのは、その商品にとても満足したということです。

なぜそう言えるのか。それは薦めたくない場合を考えると非常にわかりやすいです。商品が期待した機能を十分に発揮してくれなかった場合、その商品を他人に薦めることはありません(合理的価値が低い)。また、期待した通り使用することができたが、デザインがイマイチだった場合や店員の接客やアフターフォローで不快な思いをした場合もその商品を他人に薦めることはありません(感情的価値が低い)。

商品を他人に薦めたいと感じたと言うことは、合理的価値・感情的価値の両面で非常に満足したということの証なのです。

※顧客とのコミュニケーションを通じて自社のファンになってもらうための具体的な方法は、CCMLABOの以下の記事もご覧ください。

ネットプロモータースコア®︎は2つの質問で自社の顧客を「推薦者」、「中立者」、「批判者」に分類します。

推薦者

Q1に9、10と答えた人を推薦者と呼びます。推薦者は自社の商品の愛用者であり、ひいては自社のファンであるとも言えます。

中立者

Q1に7、8と答えた人を中立者と呼びます。中立者は文字通り中立的な立場をとり、批判することはなく、また商品を誰かに薦めることもありません。より良い商品が見つかれば競合他社にスイッチする可能性が高い人たちであるとも言えます。

批判者

Q1に0~6と答えた人を批判者と呼びます。その商品に対してネガティブなレビューをしたり、クレーマーになってしまったりします。

ネットプロモータースコア®︎は調査結果を集計して「推薦者」の数から「批判者」の数を引き算して求めます。この数値を指標としてPDCAサイクルを回すことでCXを定量的に測定して戦略的に向上させることができます。

CXが反映される経営指標は「LTV」

「自社が競争に勝つために、CXを向上させることが必要だ。」といって反対する経営者の方はいないと思います。概念としては誰も反対できません。しかし、戦略的にCXの向上を実践するためには経営レベルで重視する指標とCXが結び付ける必要があります。

CXと経営を結びつける指標、それは、自社顧客のLTVです。

LTVとは「Life Time Value」の略で、「顧客生涯価値」のことです。下記のように測定することができます。

LTV = 一回あたりの購入金額 × 一定期間の購入回数 × 継続期間

例えば5,000円の商品を月に1回購入してくれる顧客が、13ヶ月間継続した場合、LTVは65,000円ということになります。

LTVが高いと言うことは自社商品を継続して使用してくれているということであり、自社が提供している商品の合理的価値・感情的価値を愛してくれているということです。

LTVは継続期間を考慮しなければいけないため、長期的に管理する指標です。現在のCXが時間をおいて反映される指標であると言えます。したがって、直近の売上や利益と区別して経営レベルでLTVを重視する方針を打ち出す必要があります。

まとめ

今回はCXの重要性と、戦略的にCXを向上するために大切にすべき2つの指標について解説しました。CX向上によって感情的価値を高めることは競争力の強化に必須の課題です。体験という見えないものだからこそ、定量的な管理を導入することでCX向上を戦略的に推進できるようになり、長期的に顧客に選ばれる企業になるための具体的な取り組みが可能になるのです。

参考文献

フレッド・ライクヘルド【著】/ロブ・マーキー【著】/森光威文【監訳】/大越一樹【監訳】/渡部典子【訳】『ネット・プロモーター経営―顧客ロイヤルティ指標 NPS で「利益ある成長」を実現する』プレジデント社(2013)

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