テレビショッピングがクーリングオフ対象に?2023年6月1日施行の特定商取引法改正の政令について解説

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2023年2月1日に特定商取引に関する法律施行令及び預託等取引に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和5年政令第22号)が交付され、2023年6月1日から、電話勧誘販売の対象範囲が拡大されることとなりました。

具体的には、これまで「通信販売」に該当していたウェブやテレビ・ラジオ広告、新聞広告などを見て電話をかけてきた消費者に対して、クロスセルやアップセルを行うケースが「電話勧誘販売」に該当するようになります。

例えば、テレビでよく見かける「テレビショッピング」において、購入意向を持つ消費者との電話応対で、より適切な商品を勧めるとする場合等が想定されます。

今回は、この政令の内容について詳しく解説していきます。

そもそもクロスセル・アップセルとは

クロスセル

クロスセルとは、ある商品を購入した、もしくは購入を検討している消費者に別の商品を販売するマーケティング手法です。

消費者は、購入したもしくはしようとする商品に関連する商品にニーズを持つことが多く、クロスセルによって、消費者満足を高めることが期待できます。

クロスセルの具体例としては、以下のようなものがあります。

  • 家電量販店で、テレビを購入した消費者にブルーレイレコーダーを勧める。
  • 化粧品店で、ファンデーションを購入した消費者にコンシーラーを勧める。
  • 飲食店で、食事を注文した消費者にドリンクを勧める。

アップセル

アップセルとは、商品を購入した消費者により高価な商品を勧めるマーケティング手法です。

消費者は、すでに購入した商品を利用していて不便・不足を感じている場合には、より上位の商品へのニーズを持つことが多く、クロスセル同様、アップセルによって消費者満足を高めることが期待できます。

アップセルの具体例としては、以下のようなものがあります。

  • クレジットカードで、より上位のグレードのカードへの切り替えを勧める。
  • 動画配信サービスで、より上位のプランへの切り替えを勧める。
  • 飲食店で、食事を注文した消費者に、サイズアップを勧める。

クロスセル・アップセルともに、企業と消費者両方のメリットが大きいため確立されたマーケティング手法です。いわゆる押し売りとの大きな違いは、消費者とのコミュニケーションの中で、ニーズを正しく理解した上で、適切な商品を勧めるという点です。

電話勧誘販売と通信販売の違いは

電話勧誘販売と通信販売の定義

電話勧誘販売と通信販売の違いは、勧誘の方法です。

電話勧誘販売とは、事業者が電話で消費者に対して商品やサービスの販売を勧誘し、消費者が電話で申し込みを行う取引のことです。

https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/telemarketing/

通信販売とは、事業者が新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話等の通信手段により申込みを受ける取引のことです。

https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/

今回の政令は、定義に照らして、通信販売は広告で勧誘し、電話で「申し込みを受ける」こととしているのに対し、電話勧誘販売は電話で「勧誘を行い、申し込みも受け付ける」という違いを明確化しています。

電話勧誘販売は、消費者が契約を結ぶ前に通話の応対で商品やサービスの詳細を理解できるよう丁寧な説明が必要となります。

電話勧誘販売の義務・禁止行為

「電話勧誘販売」の場合、書面交付義務や、再勧誘の禁止規定など、「通信販売」にはない、義務・禁止行為が多数規定されています。ここではポイントを絞って解説します。

事業者の氏名等の明示(法第16条)

事業者は、電話勧誘販売をしようとするときは、勧誘に先立って、消費者に対して以下の事項を告げなければなりません。

  • 事業者の氏名(名称)
  • 勧誘を行う者の氏名
  • 販売しようとする商品(権利、役務)の種類
  • 契約の締結について勧誘する目的である旨

再勧誘の禁止(法第17条)

特定商取引法は、電話勧誘販売に係る契約等を締結しない意思を表示した者に対する勧誘の継続や再勧誘を禁止しています。

書面の交付(法第18条、法第19条)

特定商取引法は、事業者が契約の申込みを受けたとき又は契約を締結したときには、以下の事項を記載した書面を消費者に渡さなければならないことを定めています。

  • 商品(権利、役務)の種類
  • 販売価格(役務の対価)
  • 代金(対価)の支払時期、方法
  • 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
  • 契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項(クーリング・オフができない部分的適用除外がある場合はその旨含む。)
  • 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
  • 契約の締結を担当した者の氏名
  • 契約の締結の年月日
  • 商品名及び商品の商標又は製造業者名
  • 商品の型式
  • 商品の数量
  • 引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
  • 契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
  • そのほか特約があるときには、その内容

このほか消費者に対する注意事項として、よく読むべきことを赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。また、クーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければなりませんし、文字及び数字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上にしなければなりません。

禁止行為(法第21条)

特定商取引法は、電話勧誘販売における、以下のような不当な行為を禁止しています。

  • 契約の締結について勧誘を行う際、又は契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、事実と違うことを告げること
  • 契約の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
  • 契約を締結させ、又は契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、相手を威迫して困惑させること

クーリングオフを受け付けなければならない

クーリングオフとは、消費者が訪問販売や電話勧誘販売など、一部の契約について、一定期間内であれば、無条件で契約を解除できる制度です。クーリングオフは、消費者が冷静に判断しないまま契約を結んでしまった場合や、契約内容をよく理解していない場合に、消費者を保護するために設けられています。

電話勧誘販売はクーリングオフを受け付ける必要があります。通信販売では消費者が送料を負担して返品する必要がありましたが、クーリングオフではより消費者の負担が小さくなります。裏を返せば企業の負担が大きくなるということです。

具体的にはどのような対応が必要?

例えば、テレビショッピングを見て電話して来た消費者に対して、別の商品を販売するクロスセルを行う場合下記のような対応等が必要となります。(下記はあくまでイメージ)

  • テレビショッピングのコンタクトセンターでは、消費者の課題を聞いたことでより適切な商品を提案する可能性があるため、冒頭でエージェントが氏名を名乗った上で、手続きに関する詳細な説明を入れる。
  • 断った消費者に対する、一定期間内の再勧誘を行わないため、許諾を取得して個人情報を記録し、再勧誘しないように管理を徹底する。
  • クーリングオフができる旨など、法定の諸事項を盛り込んだ書面を作成し、必要事項は赤枠・赤字のカラー印刷を行って、消費者に郵送する。

これは、これまでになかったコストです。このコストは商品価格に転嫁され結果的に消費者が負担することになる可能性もあります。

まとめ

別記事「通信販売の消費者と健全な事業者を守る特定商取引法とは?」で解説した通り、特定商取引法は、悪徳な通信販売事業者を取り締まり、消費者と健全な事業者を守るため、社会背景の変化に合わせて進化しています。

健全な事業者を守るために、改正にあたりどのような対応が必要なのか、例外はないのか、等を具体的なガイドラインで明確にされることが望まれます。

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