通信販売は実際に店舗に行くことなく目的の商品を購入することができる非常に便利な購入方法ですが、インターネットを中心に悪徳な事業者も多く存在します。通信販売の消費者と健全な事業者を守る特定商取引法という法律に基づき、消費者庁は悪徳な事業者の取り締まりを強化しています。
今回は特定商取引法とは何か、インターネット時代に対応するためにどのような改正がなされてきたかについて、解説します。
特定商取引法とは
特定商取引法とは
特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。 具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。
特定商取引法の対象となる取引類型
訪問販売
事業者が消費者の自宅等に訪問して、商品や権利の販売又は役務の提供を行う契約をする取引のこと。キャッチセールス、アポイントメントセールスを含みます。
通信販売
事業者が新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話等の通信手段により申込みを受ける取引のこと。「電話勧誘販売」に該当するものを除きます。
電話勧誘販売
事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引のこと。電話を一旦切った後、消費者が郵便や電話等によって申込みを行う場合にも該当します。
(追記)2023年の特別商取引法改正についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
連鎖販売取引
個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)・役務の取引のこと。
特定継続的役務提供
長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引のこと。現在、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の7つの役務が対象とされています。
業務提供誘引販売取引
「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引のこと。
訪問購入
事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引のこと。
特定商取引法における規制の内容
行政規制
特定商取引法では、事業者に対して、消費者への適正な情報提供等の観点から、各取引類型の特性に応じて、以下のような規制を行っています。特定商取引法の違反行為は、業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなります。
規制項目 | 規制の内容 | |
1 | 氏名等の明示の義務付け | 事業者に対して、勧誘開始前に事業者名や勧誘目的であることなどを消費者に告げるように義務付けています。 |
2 | 不当な勧誘行為の禁止 | 価格・支払条件等についての不実告知(虚偽の説明)又は故意に告知しないことを禁止したり、消費者を威迫して困惑させたりする勧誘行為を禁止しています。 |
3 | 広告規制 | 事業者が広告をする際には、重要事項を表示することを義務付け、また、虚偽・誇大な広告を禁止しています。 |
4 | 書面交付義務 | 契約締結時等に、重要事項を記載した書面を交付することを事業者に義務付けています。 |
民事ルール
特定商取引法は、消費者と事業者との間のトラブルを防止し、その救済を容易にするなどの機能を強化するため、消費者による契約の解除(クーリング・オフ)、取消しなどを認め、また、事業者による法外な損害賠償請求を制限するなどのルールを定めています。
消費者保護の項目 | 消費者保護の内容 | |
1 | クーリング・オフ | クーリング・オフとは、契約の申込み又は締結の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間内(※)に、無条件で解約することです。(※) 訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入においては8日以内、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引においては20日以内。通信販売には、クーリング・オフに関する規定はありません。 |
2 | 意思表示の取消し | 特定商取引法は、事業者が不実告知や故意の不告知等を行った結果、消費者が誤認し、契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときには、消費者が、その意思表示を取り消すことができる旨を規定しています。 |
3 | 損害賠償等の額の制限 | 特定商取引法は、消費者が中途解約する際等、事業者が請求できる損害賠償額に上限を設定しています。 |
特定商取引法改正のポイント
特定商取引法は、2021年6月に改正され、2022年6月に施行されました。改正の背景とポイントを解説します。
特定商取引法改正の目的
背景となる社会問題
定期購入商法に関して消費者庁への相談件数は2015年には約4000件でしたが、2020年には約56,000件と14倍まで増えています。2020年の定期購入に関する相談件数の9割以上が、インターネット通販によるものです。
定期購入商法の表示に関する問題点
定期購入商法の広告・申し込み画面における表示の問題点は下記の通りです。
- 「初回無料」「お試し」と書いておきながら、実際には定期購入であることが条件だった
- いつでも解約可能といっておきながら、実際には解約に細かい条件がある
このような悪徳な定期購入商法を、誠意を持って通信販売・定期購入のサービスを営んでいる健全な事業者の定期購入商法と区別して「詐欺的な定期購入商法」と呼び、消費者庁による取り締まりの強化が求められるようになりました。
特定商取引法改正の目的
このような背景を受けて、消費者の脆弱性につけ込む悪質商法に対する抜本的な対策強化、新たな日常における社会経済情勢等の変化への対応のため、消費者被害の防止・取引の公正を図ることを目的として特定商取引法の改正が実施されました。
特定商取引法の主な改正内容
通販の「詐欺的な定期購入商法」対策
通信販売の「詐欺的な定期購入商法」対策として、特定商取引法は下記のように改正されました。この改正内容については、2-3.具体的な改正内容、で詳しく解説いたします。
- 定期購入でないと誤認させる表示等に対する直罰化
- 上記の表示によって申込みをした場合に申込みの取消しを認める制度の創設
- 通信販売の契約の解除の妨害に当たる行為の禁止
- 上記の誤認させる表示や解除の妨害等を適格消費者団体の差止請求の対象に追加
消費者利益の擁護増進のための規定の整備
消費者の利益を擁護するため、下記のように規定を整備するよう、特定商取引法は改正されました。
- 消費者からのクーリング・オフの通知について、電磁的方法(電子メールの送付等)で行うことを可能に(預託法も同様)
- 事業者が交付しなければならない契約書面等について、消費者の承諾を得て、電磁的方法(電子メールの送付等)で行うことを可能に(令和5年6月 までに施行)
- 外国執行当局に対する情報提供制度の創設
- 行政処分の強化
送り付け商法対策
売買契約に基づかないで送付された商品について、送付した事業者が返還請求できない規定の整備等(改正前は消費者が14日間保管後処分等が可能→改正後は直ちに処分等が可能に)
具体的な改正内容
「2-2-1.通販の「詐欺的な定期購入商法」対策」の具体的な内容として下記のように規制が強化されました。
新設規定の対象となる範囲は下記の通りです。
- カタログ・チラシ等の書面で申込みを行う通信販売→申込書面(申込用はがき、申込用紙等)に表示
- インターネットで申込みを行う通信販売→申込みの最終段階である最終確認画面に表示
改正事項1
通信販売の申込みに係る最終確認画面等において、下記の2点が定められました。
①下記の内容を具体的に表示するよう義務付け
②契約の申込みとなることや下記の事項につき、人を誤認させるような表示を禁止
※消費者が明確に認識できる前提で、一部事項について広告やリンク先を参照する形式等も可
対象となる事柄 | 表示を義務付け、もしくは誤認させるような表示を禁止 | |
分量 | 定期購入契約の場合には、各回ごとの分量及び総分量サブスクリプションの場合には、役務の提供期間(設定がある場合は、期間内に利用可能な回数)該当する場合には、無期限や、自動更新である旨 | |
販売価格・対価 | 定期購入契約の場合には、各回の代金及び消費者が支払うこととなる代金の総額無償契約から有償契約に自動で移行するような場合には、移行時期と支払うこととなる金額 | |
支払の時期・方法 | 定期購入契約の場合には、各回の代金の支払時期 | |
引渡時期・提供時期 | 定期購入契約の場合には、各回の商品の引渡時期 | |
申込みの期間 | 消費者が商品自体を購入できなくなる期限がある場合には、正しい申込期限 | |
申込みの撤回、解除に関する事項 | 定期購入契約において、解約時に違約金その他の不利益が生じる場合には、その旨及び内容とりわけ、解約方法や解約受付を特定の手段・時間帯に限定する場合等は、その旨 |
改正事項2
通信販売において広告をする際に以下の内容を表示事項として義務付け
- 申込みの期間に関する定めがある場合は、その旨とその内容
- 役務提供契約の解除等に関する事項
改正事項3
通信販売に係る契約の解除等を妨げるため、当該契約の解除等に関する事項等につき、 不実のことを告げる行為を禁止
改正事項4
「改正事項1」の規定に違反する表示により消費者が誤認して申込みをした場合の取消権を創設
改正事項5
「改正事項1」及び「改正事項3」の規定に違反する行為を適格消費者団体の差止請求の対象に追加
誤認させるような表示の具体例
誤認させるような表示の具体例①
初回無料を強調して表示し、定期購入契約であること及びその具体的内容については、「初回無料」などの文字から離れた画面下部に、それと比較して小さな文字でしか表示していないもの
誤認させるような表示の具体例②
「お試し」と強調している表示から試行的な契約であると認識されるおそれがあるが、実際は定期購入契約となっており、内容が矛盾しているもの、または、「お試し価格」の表示や通常価格よりも減額された初回代金の表示のみを強調しているにもかかわらず、これらの表示と比較して、定期購入契約の主な内容について小さな文字でしか表示していないもの
まとめ
特定商取引法は、悪徳な通信販売事業者を取り締まり、消費者と健全な事業者を守るため、社会背景の変化に合わせて進化しています。
便利な通信販売は、消費者の抱えた悩みや課題を解決できる健全な事業者による安全・安心な取引を守る制度に支えられているのです。