2020年はDX(デジタルトランスフォーメーション)元年と言われていました。DXはバズワードとなり、DX関連のニュースや事例の発表が毎日メディアを賑わせています。しかし、DXという言葉はある意味ではビッグワードであり、いろいろな解釈があるように思います。
新型コロナウィルス感染症の影響もあり、2020年から引き続き2021年も仕事のあり方が大きく変化していくことでしょう。ますますDXは避けて通れない問題となります。
そこで今回、仕事の現場で効果的なDXを実践していくために、カスタマーコミュニケーションの観点からDXの本質を考えてみたいと思います。
いまさら聞けないDXとは
DXの定義
DXは2004年発表された
「“Information Technology and the Good Life,”」*
という論文で提唱された概念で、企業や人々の生活とIT技術が不可分に結びついた状態となることを意味しています。そしてその論文には、DXは「Good Life」の実現を助けるものでなければならない、とも書かれています。
概念としてのDXは15年以上前に提唱されたものですが、昨今話題となっているDXはより具体的な内容を指すことが多く、2018年に経済産業省が発表した下記の内容に基づいていることが多いようです。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf
つまり、漠然とした概念ではなく、企業を主体として、データとデジタル技術を活用した変革を実行することがDXの定義となっています。
DXの本質を考える
以前、「データとAIの力でお客様をおもてなし!「ECの心地よい顧客体験」をつくるDX推進」というタイトルでDX推進に関して特集しました。
この中で、DXについて下記のように解説しています。
業務プロセスからデータを取得し、データを活用して業務改善を実施すること、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション、以下DX)は企業必須の経営課題なのです。
【第2回】 実践方法徹底解説 -Data is Kingの時代がやってきた。データとAIを駆使して自社LP運営のDXを推進するには-
AIなどの最先端の技術を使うこと自体がDXの本質ではなく、業務プロセスからデータを取得できるようにすること、そのデータを活用して業務を改善(ときに大きく変革)することがDXの本質であるといえます。
実際にはDXはどのように実現されているのでしょうか。カスタコミュニケーションの観点では、消費者の行動に沿って考えてみると、身近なところにたくさんのDXがあることがわかります。
カスタマーコミュニケーションのDX
消費者の行動をモデル化したマーケティングフレームワークAISAS
消費者(=カスタマー)の行動をモデル化したマーケティングフレームワークにAISASがあります。AISASとは消費者が商品を購入したり、サービスを利用したりする際のプロセスを紐解いたものです。
Attention(認知・注意):商品やサービスを知る
Interest(興味・関心):商品やサービスに興味を持つ
Search(検索):商品やサービスに関する情報を得るためにインターネットで検索する
Action(行動):商品を購入する・サービスを利用する
Share(共有):商品やサービスの感想をSNSなどで共有する
プロセスに分けて考えてみると、AISASはみなさんが商品を購入したり、サービスを利用したりする時の行動をうまく表現しているのではないでしょうか。
カスタマーコミュニケーションのDXを考えるにあたり、今回はこのプロセスに沿って、身近にあるDXの例を考えてみたいと思います。
カスタマーコミュニケーションのDX例
Attention(認知・注意)/Interest(興味・関心)
消費者が商品やサービスを知るきっかけとなるのが広告です。広告はDXによってどのように変化したのでしょうか。
AttentionのBefore DX
テレビ、ラジオ、新聞等によるマス広告が商品やサービスを知るきっかけでした。マス広告という名前からもわかるように、多くの消費者に1つのメッセージを伝えることが目的です。
マス広告は広告主のニーズに応えるために非常に高度な仕組みで運用されています。さらにDXによって消費者のニーズに対応することが可能になりました。
AttentionのAfter DX
インターネットが普及し、消費者の性別、年代や何に興味があるかという情報がデータとして取得できるようになりました。そのデータを分析して、消費者の属性や興味に応じて広告を出し分けるデジタル広告が登場しました。デジタル広告は絞り込んだターゲットに対してメッセージを伝えることが目的です。
どちらが良い、悪いというわけではなく目的によって使い分けることで消費者とのより良いコミュニケーションが可能となりました。
Search(検索)
消費者が商品やサービスの情報を得るための行動は、DXによってどのように変化したのでしょうか。
SearchのBefore DX
商品やサービスの情報を得るためには店舗に足を運び、実物を見たり、店員に質問したりすることで疑問を解決することがほとんどでした。
SearchのAfter DX
インターネットの普及によって企業がWebページを制作することが当たり前となり、インターネットの検索によって情報を得ることができるようになりました。
単に情報が得られるだけではありません。企業がWebページのアクセスデータを分析して、より消費者に求められているWebページに改善することで、店舗への訪問や問い合わせをしなくても商品について十分な情報が得られるようになっています。
接客(おもてなし)のDXの実例ついては、下記の記事も併せてご覧ください。
Action(行動)
消費者が商品を購入したりサービスを利用したりする場面では、どのようなDXが生まれたのでしょうか。
ActionのBefore DX1 -支払い-
商品を買ったりサービスを利用したりする際には支払いが必要です。レジに並んで現金で支払いをする必要がありました。
ActionのAfter DX1 -支払い-
インターネット上でクレジットカードを使って支払いをするということは、今では当たり前になっています。そして消費者が商品を購入した記録がデータとして蓄積され、消費者の理解に活用されています。
しかし、全てがインターネットに置き換わったわけではなく、実際に店舗で購入したり、電話で申し込んだりする必要がある商品やサービスもあります。
では、店舗や電話での購買行動にはDXの余地がないかというと、そんなことはありません。実は裏側でDXが実現されていることもあります。例えば、通信販売の申し込みを受けるコールセンターでは記録のデジタル化が進んでいます。
ActionのBefore DX2 -購入を受け付けるコールセンター-
従来はオペレーターが所定の用紙に手書きで注文内容を記録していました。手書きであることにもメリットがあるため(本論との関係が薄いため今回は割愛します)、デジタル化が進んでいませんでした。
ActionのAfter DX2 -購入を受け付けるコールセンター-
手書きした内容をそのままデータとして記録できる技術が普及したため、記録をデータとして管理し、コールセンター全体で共有することで業務効率を上げるDXが実現しています。
Share(共有)
DXによって消費者が商品やサービスを利用した感想を共有することも非常に簡単になりました。
ShareのBefore DX
商品やサービスを利用した感想は口コミという形で共有されていました。たまたま知人に商品やサービスの利用者がいれば感想を聞くことができましたが、そうでない場合には事前に感想を聞くことはできませんでした。
ShareのAfter DX
商品やサービスを利用した後、SNSに感想を投稿する方も多いと思います。また、レビューという形で感想をフィードバックすることも当たり前になっています。これらは口コミのDXです。DXによってこれからその商品を購入しようと考えている消費者、サービスを利用しようとしているユーザーは既に利用した複数の人の感想という非常に有益な情報を得ることができるようになりました。
まとめ
今回はカスタマーコミュニケーションの観点からDXの本質を考え、体系的に事例を整理してみました。一つ一つの業務におけるDXに焦点を当てると、どれも今では当たり前になっていることばかりだったのではないでしょうか。
DXの本質を考えると、目新しく難解な事例だけでなく、みなさんがよく知っている様々なサービスがDXそのものであることがわかります。みなさんも身近にあるDXを見つけて、業務に活かしてみてはどうでしょうか。
参考文献
*Erik Stolterman & Anna Croon Fors: “Information Technology and the Good Life,” January 2004