カスタマーハラスメントから従業員を守るために!具体的な事例と対策を徹底解説

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近年顧客からの迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントの被害が増えています。

厚生労働省が実施した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、企業に対する調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業の割合は19.5%、 また 同調査の労働者に対する調査では、 過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験したと回答した割合は15.0%にのぼります。

顧客と接する仕事をする人の約6人に1人がカスタマーハラスメントを受けた経験があるということになります。

今回は、働く人を守るために、カスタマーハラスメントとは具体的にどういうものか、どのような対策が考えられるかを解説します。

この記事は厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルの内容に準じています。

[出典]カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先などから受けた、暴言や脅迫、不当な要求などの嫌がらせやいじめのことを指します。略して「カスハラ」とも呼ばれます。

カスタマーハラスメントの判断基準

顧客との関係性をいたずらに悪化させないため、カスタマーハラスメントの判断基準を正しく理解しておくことが重要です。

顧客の要求内容の妥当性

顧客の主張に関して、事実関係・因果関係を確認し、自社に過失・根拠のある要求がなされているかを確認します。

例えば顧客が購入した商品に瑕疵がある場合、謝罪と共に、商品の交換・返金に応じることは妥当です。逆に、自社の過失、商品の瑕疵などがなければ、顧客の要求には、正当な理由がないと考えられます。

要求を実現するための手段・態様

顧客が要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかを確認します。

例えば、長時間に及ぶクレームは、業務の遂行に支障が生じるという観点から社会通念上相当性を欠く場合が多いと考えられます。また、顧客等の要求内容に妥当性がない場合はもとより、妥当性がある場合であっても、その言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的、性的である場合は、社会通念上不相当であると考えられ、カスタマーハラスメントに該当し得ます。

カスタマーハラスメントの種類

時間拘束型

長時間の拘束・居座りや電話等、時間を使わせて業務に支障を与えるもの

リピート型

頻繁に来店してその度にクレームを言う、度重なるクレーム電話、複数部署に複数回のクレームを入れる等、同一の内容で繰り返しクレーム入れるもの

暴言

コールセンターや実際の店舗で大声の暴言・恫喝で執拗に責め立てるもの

対応者の揚げ足取り、自らの要求や同一の質問を繰り返し、言葉尻を捉えたり、対応のミスを誘発したりして責め立てるもの

脅迫

物を壊す、担当者または関係者に危害を加える旨の発言をして脅すもの

権威型

優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求

SNSへの投稿

インターネット上への対応担当者の個人情報の暴露や、企業の信用を毀損させるような虚偽の発信

過度な要求

値下げやキャンセル代の踏み倒し、金銭や入手困難な商品等の契約内容を超えた過剰な要求

コロナ禍に関するもの

自身のマスク着用拒否、わざと咳をする等のいやがらせ

セクハラ

特定の担当者へのつきまとい、わいせつな行為、盗撮等のいやがらせ

その他

敷地内への不法侵入、正当な理由のない業務スペースへの立ち入り

カスタマーハラスメントが企業に与える影響

カスタマーハラスメントの具体的な影響

従業員、業務・業績、他の顧客に対して、カスタマーハラスメントは悪影響を及ぼします。

従業員への影響

  • 業務のパフォーマンスの低下
  • 健康不良(頭痛・睡眠不良・精神疾患・耳鳴り、等)
  • 現場対応への恐怖、苦痛による従業員の配置転換、休職、退職

業務・業績への影響

  • 時間の浪費(クレームへの現場での対応・電話対応・謝罪訪問・社内での対応方法の検討・弁護士への相談、等)
  • 業務上の支障(顧客対応によって他業務が行えない、等)
  • 人員確保(従業員離職に伴う従業員の新規採用・教育コスト、等)
  • 金銭的損失(商品・サービスの値下げ・慰謝料要求への対応・代替品の提供、等)
  • 店舗、企業に対する他の顧客等のブランドイメージの低下

他顧客への影響

  • 来店する他の顧客の利用環境、雰囲気の悪化
  • 業務遅滞によって他の顧客等がサービスを受けられない、等

企業が従業員を守る義務

企業にはカスタマーハラスメントから従業員を守る義務があり、それを怠った場合には、従業員からの損害賠償が認められるケースもあります。

従業員の安全配慮義務の履行

企業は、労働契約法第5条に基づき、従業員の安全配慮義務を負っています。これは、企業が従業員の生命・身体・健康を守るために必要な配慮をすべきことを意味します。

カスタマーハラスメント防止のための対策の実施

カスタマーハラスメントは、従業員の精神的な健康に大きなダメージを与える行為です。そのため、企業は、カスタマーハラスメントから従業員を守るために、必要な対策を講じる必要があります。

カスタマーハラスメントに対する具体的な対策・対応

カスタマーハラスメントに対する具体的な対策

基本方針の策定と周知

カスタマーハラスメントを許さないことを明確にし、従業員が安心して働ける職場環境を整備するために、基本方針を策定し、従業員に周知する必要があります。基本方針には、カスタマーハラスメントの定義や対応方針、相談窓口などを盛り込むとよいでしょう。

[出典]カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

対応マニュアルの作成

カスタマーハラスメントが発生した場合に、適切に対応するために、対応マニュアルを作成します。対応マニュアルには、以下の内容を盛り込むとよいでしょう。

  • ・カスタマーハラスメントの判断基準
  • 対応の流れ
  • 記録方法
  • 再発防止策

従業員教育の実施

カスタマーハラスメントの被害に遭わないための知識やスキルを身につけるため、従業員教育を実施します。教育の内容は、以下のようなものが考えられます。

  • カスタマーハラスメントの定義と種類
  • カスタマーハラスメントの予防策
  • カスタマーハラスメントへの対処方法

相談窓口の設置

カスタマーハラスメントを受けた従業員が安心して相談できる窓口を設置します。相談窓口には、専任の担当者を置いたり、弁護士などの専門家に相談できる体制を整えたりするとよいでしょう。

再発防止策の実施

カスタマーハラスメントが発生した場合は、再発防止策を実施します。再発防止策には、以下のようなものが考えられます。

ハラスメント行為をした顧客への対応例

時間拘束型のカスタマーハラスメントへの対応例

長時間にわたり、顧客等が従業員を拘束する。居座りをする、長時間電話を続ける、等の時間拘束型のカスタマーハラスメントへの対応例としては以下のようなものが考えられます。

  • 対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げる
  • 膠着状態に至ってから一定時間を超える場合、お引き取りを願う、または電話を切る
  • 複数回電話がかかってくる場合には、あらかじめ手対応できる時間を伝えて、それ以上長い対応はしない
  • 現場対応においては、顧客等が帰らない場合には、毅然とした態度で退去を求める
  • 弁護士への相談や警察への通報等を検討する

リピート型のカスタマーハラスメントへの対応例

理不尽な要望について、繰り返し電話で問い合わせをする、または面会を求めてくる、等のリピート型のカスタマーハラスメントへの対応例としては以下のようなものが考えられます。

  • 連絡先を取得し、繰り返し不合理な問い合わせがくれば注意し、次回は対応できない旨を伝える
  • それでも繰り返し、連絡がくる場合、リスト化して通話内容を記録し、窓口を一本化して、今後同様の問い合わせを止めるように伝えて毅然と対応する
  • 弁護士や警察への相談等を検討する

暴言型のカスタマーハラスメントへの対応例

大きな怒鳴り声を上げる、「馬鹿」といった侮辱敵発言、人格の否定や名誉を毀損する発言をする、等の暴言型のカスタマーハラスメントへの対応例としては以下のようなものが考えられます。

  • 大声を張り上げる行為は、周囲の迷惑となるため、やめるように求める
  • 暴力的発言や名誉毀損、人格を否定する発言に関しては、後で事実確認ができるように録音し、程度がひどい場合には退去を求める
  • 弁護士や警察への相談等を検討する

脅迫型のカスタマーハラスメントへの対応例

暴力的な危害を加えると脅しを行う、SNSへのネガティブな投稿等の脅しを行う、等の脅迫型のカスタマーハラスメントへの対応例としては以下のようなものが考えられます。

  • 暴力的な脅しの場合には、警備員等と連携を取りながら、複数名で対応し、警察に通報を検討する
  • SNSへの投稿等、ブランドイメージを下げるような脅しをかける発言を受けた場合にも、毅然と対応し、退去を求める
  • 弁護士への相談等を検討する

権威型のカスタマーハラスメントへの対応例

正当な理由なく、権威を振りかざし要求を通そうとする、お断りしても執拗に特別扱いを要求する、または、文書等での謝罪や土下座を強要する、等の権威型のカスタマーハラスメントへの対応例としては以下のようなものが考えられます。

  • 不用意な発言はせず、対応を上位者と交代する。要求には応じない

セクハラ型のカスタマーハラスメントへの対応例

従業員の体に触る、待ち伏せする、付きまとう等の性的な行動、食事やデートに執拗に誘う、性的な冗談といった性的な内容の発言を行う、等のセクハラ型のカスタマーハラスメントへの対応例としては以下のようなものが考えられます。

  • 性的な言動に対しては、録音・録画等による証拠を残す
  • 被害者および加害者に事実確認を行う・加害者には警告を行う
  • 執拗な付きまとい、待ち伏せに対しては、施設への出入り禁止を伝える
  • それでも繰り返す場合には、弁護士への相談や警察への通報等を検討する

まとめ

カスタマーハラスメントは、従業員のモチベーション低下や離職を招き、企業の業績やブランドイメージに損害を与え、場合によっては企業の法的な責任を問われる重要な経営課題です。この記事を参考に、カスタマーハラスメントを防止し、発生してしまった場合でも正しく対応するための対策を講じることを検討してみてはいかがでしょうか。

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