インターネットやAIをビジネスで活用することが当たり前になり、企業と顧客の関係も変化しています。企業が顧客に単に情報を提供するためだけであれば、近い将来、必ずしもヒトが介在する必要性はなくなっていくかもしれません。
一方で、コールセンター業界の市場規模は毎年拡大しています。つまり、企業から見たとき、顧客とコミュニケーションするためにコールセンターを設置するニーズは減るどころか、増えているのです。
本記事では、CCMLABOの運営会社アイビーシステムでの実例を基に、コールセンターの現場における10年前と現在の”当たり前”を比較して、AI時代に、コールセンターが果たすべき役割を考えてみたいと思います。また、本記事では、オペレーターのことをエージェントと表記します。理由は記事の後半でご説明します。
コールセンターの現場はどう変わったか
これまでのコールセンターの常識
10年前のコールセンターのエージェント教育は、徹底したマナー研修を中心としたものでした。顧客を不快にしないことを最大の目的とし、統一されたサービスが提供できるようにトレーニングすることが徹底されていました。
敬語を間違えない
例えば、言葉遣い、具体的には正しい敬語の教育が挙げられます。相手を敬う尊敬語、自身が謙る謙譲語、言葉を柔らかくする丁寧語、それぞれの正しい意味と用法を徹底的にトレーニングし、エージェントの評価も敬語を間違えなかったか、という点が重要視されていました。
NGワードを言ってはいけない
もう一つ重要なこととして、「NGワード」というものがリスト化され、その単語を使わないように対話する訓練にも力が入れられました。企業の意図に添わない言葉や、顧客を不愉快にしてしまう可能性がある単語は回避して応対するために綿密なトークスクリプトが用意され、エージェントはトークスクリプトから逸脱しないように、完全に記憶し、実践することが求められていました。
AI時代だからこそ、機械的でない応対が価値になる
しかし、この10年で、コールセンターに求められるコミュニケーションのあり方は大きく変化しました。ある意味で「機械的」とも言える統一されたサービスから、AIやテンプレート化されたメール・チャットボットでない臨機応変かつ感情のあるコミュニケーションが重要視されるようになってきています。
間違えても、笑顔と感謝の気持ちを
10年前のコールセンターの現場には、敬語を間違うと管理者からきつく注意を受けるなど、間違いを許さない風潮がありました。しかし、相手を不愉快にさせないという水準のコミュニケーションから、企業の顔としてブランドの一部を担うことを期待されるようになった、つまり企業からコールセンターへの要求水準が高まった結果、間違いを犯さないという守りの姿勢から顧客にブランドを好きになってもらうためのコミュニケーションが重視されるようになりました。そのため、電話口でも笑顔を絶やさず、顧客が時間を割いてブランドに興味を持ってくれたことに感謝する姿勢が大切にされ、より積極的に笑顔と感謝が伝わるように間違いを恐れず対話するようエージェントに前向きなマインドセットを促すトレーニングに時間が使われるようになりました。
機械にはできない「傾聴姿勢」こそがヒトにしかできない価値
現在のコールセンターで特に重要視されているのが、顧客の疑問や意見をきちんと受け取った上で、顧客が本当に必要としているものは何かをきちんと把握するための「傾聴姿勢」です。コールセンターに電話をかけてくるすべての顧客が、考えを整理し、言語化できているわけではありません。わからないことあって解決したいのか、意見を企業に伝えたいのか、顧客が自分でも整理できていない本当に伝えたいことを対話の中で引き出し、正しく受け取ること、そして、顧客が本当に求めているものは何かを把握することが、がヒトが応対することの本質的な意味として重要視されています。
10年前 | 現在 | |
応対マナー | 敬語を間違わないNGワードを使わない | 間違えることを怖がるのではなく、笑顔と感謝の伝わる応対をする |
コミュニケーションの姿勢 | 顧客を不快にさせずに、必要な情報をやりとりする | 顧客の本当に伝えたいことを引き出す「傾聴姿勢」 |
数をこなすオペレーターからお客様の悩みを解決するエージェントへ
本当に最重要KPIは「CPH」なのか
コールセンターの重要なKPIにCPHというものがあります。
CPHとは
1時間で何回の着電に応じられたかを示す指標で、生産性の高さを直接的が反映します。算出方法は以下のとおりです。
1日の応対件数÷稼働時間
10年前のコールセンターでは、1件でも多く処理することが最重要KPIでした。そのため、CPHが生産性指標として非常に重要視され、コールセンターの現場で数値の改善が日夜研究されてきました。
CPHを改善する方法
CPHを改善する方法の例としてあるのが、1件あたりの応対時間にルールを設定するというものです。顧客の疑問が全て解決していなくても、電話を切り上げて、次の待呼*の対応に移ることで処理件数を増やすことはできます。しかし、「きちんと話を聞いてくれなかった」と、企業のブランドを毀損することが多く生産性だけの追求はデメリットの大きくなります。
*待呼:エージェントが対応できず、待たせてしまっている電話
高い生産性を維持しながら、1件1件の質も高めることが求められる
しかし、ブランド毀損をさせたくないからといって、顧客の応対に無制限に時間をかけて良いかというと、もちろんそんなことはありません。現代のコールセンターにおいても生産性は非常に重要です。いや、むしろ企業のコールセンターに対する生産性の要求はより強くなっています。つまり、生産性は維持しながら、顧客への対応の質を高めることが現代のコールセンター必須の課題となっているのです。
お客様の課題を解決するエージェントへ
生産性を維持しながら対応の質を高めようとすると、限られた時間の中で顧客の伝えたいことを引き出すための高度なヒアリング技術が必要になります。そのためには対話の中心をずらさないようにすることが大切です。
例えば通信販売の受注業務の場合、顧客との最初の共通認識は商品です。したがって、商品で解決できることを正確に説明し、顧客の抱える悩み、課題を合っているかを確認することで、正確に短時間で、顧客の課題が解決できることを伝えることできます。もちろん、その商品についての深い知識量が求められます。企業の担当者に代わり、プロフェッショナルとして顧客の課題を解決するオペレーターは、エージェントと呼ばれるようになりました。
人財として育成する
コールセンターのエージェントが企業のイメージ、ブランドを左右することは先述した通りです。そのため、エージェントを人財として育成することは非常に重要です。
10年前は、エージェントへの教育は言葉遣いや作業上のミスに関するFBがメインでした。正しいことを教えるティーチングと呼ばれる手法です。したがって、エージェントは日々ミスをしないようにということに意識を集中することになりました。
しかし、企業の顔として、笑顔と感謝を伝えるためには、まずエージェントが笑顔にならなければなりません。
そこで、エージェントがモチベーションを高め、笑顔と感謝を実践できるマインドセットができるようにするため、良い点を中心にFBしながら、改善点を一緒に考えて目標設定をする、つまりティーチングからコーチングへと育成の方法が洗練されました。
まとめ
今回は、コールセンターの現場でこの10年にどのような変化が起きたかをまとめながら、コールセンターにおいてヒトが応対することの本質を考えました。プロフェッショナルとして高い生産性を発揮しながら、企業の顔としてブランドをより好きになってもらうために「笑顔と感謝」を伝えながら、お客様のお話に心から耳を傾けられるエージェントが活躍できることがAI時代にコールセンターが目指すべきのあり方の一つの形ではないでしょうか。