カスハラ条例は東京都内だけ?コールセンターは都外にあるけどどうなるの!? 東京都カスハラ防止条例のガイドラインを分かり易く解説

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 2022年4月、顧客による著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の増加に対して、事業主のカスハラへの取組みをうながすため、「厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が厚生労働省ホームページおよび関連資料で公表されました。
それから3年が経過し、2025年6月、事業者のカスハラ対策措置が義務化された「令和7年改正労働施策総合推進法」いわゆるカスハラ対策法が制定されました。

カスハラ対策措置を講じろと言われても、いったい誰のどのような行為が「カスタマーハラスメント」になるのでしょうか。従業員や取引先に対して何をしなければいけないのでしょうか。

いくつかの地方自治体では、すでに”カスハラ防止条例”が制定されていて、条例に対するガイドラインも公開されています。

今回は、東京都のカスタマーハラスメントの防止に関する指針(東京都カスハラ条例 ガイドライン)から、条例で定義されている「カスタマーハラスメント」や「顧客等、就業者及び事業者」について解説します。

 この記事は東京都カスタマーハラスメント防止条例のガイドラインの内容に準じて説明します。
[出典]カスタマーハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン) 令和6年12月https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin_slide0612.pdf

地方自治体のカスハラ防止条例制定の動き

すでに、地方自治体では東京都、北海道、群馬県、三重県桑名市でカスハラ防止条例が施行され、他の地方自治体でも検討がすすんでいます。

カスハラ防止条例の施行済自治体と条例の特徴

・東京都
 顧客による暴言・過度な要求などのカスハラ禁止、事業者への予防措置と協力義務を定めています

・北海道
 カスハラ行為を禁止し、指針の作成および啓発・相談支援などを道と事業者に義務付けています

・群馬県
 暴言・脅迫・過度な要求などを禁止し、啓発・教育・情報提供の取り組みを県に義務付けています

・三重県桑名市
 カスハラ禁止に加え、市長が認定した悪質行為については加害者の氏名公表も可能とする全国初の条例です

地方自治体のカスハラ防止条例の制定検討状況

地方自治体のカスハラ防止条例の検討、成立、施行状況(2025年6月時点)

自治体状況と特徴
東京都、北海道、群馬県、
三重県桑名市、群馬県嬬恋村
条例施行済
愛知県、三重県、岩手県、栃木県、
埼玉県、静岡県、和歌山県 など
条例案やマニュアル整備検討中

東京都カスタマーハラスメント防止条例の指針(ガイドライン)

東京都は、東京都カスタマーハラスメント防止条例のガイドラインで、条例の各条文で使われる言葉(「カスタマーハラスメント」「顧客等」「就業者」「事業者」など)の意味や用語の定義をしています。

カスタマー・ハラスメントの禁止

行為の主体「何人も」「あらゆる場所において」とは


行為主体については、消費者だけでなく企業間取引の法人顧客の従業員もカスハラの行為主体になる。
また、場所については、対面の行為だけでなく、電話やインターネット等の遠隔地での行為も含まれるとしています。

たとえば、東京都外から東京都内の事業者の就業者に対して、電話やメール・SNSで「迷惑行為」をする場合もカスハラ行為の対象に含まれる、ということですね。

それでは、「カスタマーハラスメント」とはどのような行為のことでしょうか。

カスハラの定義


それぞれの要素を箇条書きにするとこんなかんじでしょうか。

①誰が誰にする行為
 ➡ 「顧客等」が「就業者」にする行為

②どのような行為
 ➡ 著しい迷惑行為
  (暴行脅迫等の違法行為を含む、正当な理由が無い過度の要求や暴言等の不当行為)

③その行為の就業環境への影響
 ➡ 就業環境が害される

この①②③の要素が全て満たされると「カスハラ」になるわけですね。

気になる言葉が出てきました。

「その業務に関して」や「就業環境が害される」とはどういう意味でしょうか。

・「その業務に関して」の“業務”に業務時間外は含まれる?

ガイドラインでは、”業務”  の範囲について、『労働時間外の就業者又は定まった労働時間がない就業者が受けたその業務遂行に影響を与える顧客等からの著しい迷惑行為』も範囲に含まれるとしています。 

・「就業環境が害される」の “害される” ってどういう状態?

ガイドラインでは、”害される” の状態について、『顧客等による著しい迷惑行為により、人格又は尊厳を侵害されるなど、就業者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じること』としています。

例えば、飲食店で接客を仕事にしている人が、SNSで名指しで暴言を書き込まれて、通常の勤務が難しくなる程度に精神的な苦痛を受けた場合は、その行為が営業時間外の行為であっても「カスハラ」になるということですね。

さらに、ガイドラインでは、顧客等から法人等に対する著しい迷惑行為(例:インターネット上での法人への誹謗中傷など)について、『その内容により法人等の経営者や従業員などの就業環境が害されたと言える可能性があるため、法人等に対する著しい迷惑行為も行われるべきでない。』としています。

カスタマーハラスメントに関連する条例の用語の定義

カスハラ行為については、ほぼ厚生労働省の「厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を踏襲した内容ですね。


※カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

では、条例の対象範囲になる「事業者」については、どう考えれば良いのでしょうか。

「事業者」とは


『「都内」で事業を行う法人その他の団体又は事業を行う個人』が対象ですね。

「都内に本社がある場合」のほか、「本社が都外あっても都内に店舗や事務所がある場合」も対象となりますので、東京都内に拠点を持つ事業者は、拠点が条例の対象になることに注意しなければいけませんね。

「就業者」とは


 ガイドラインでは、「就業者」の考え方についても示していて、労基法や労働組合法で規定されている労働者だけでなく、事業者の行う事業に関連する社会的活動の行為も業務にあたるとしています。


『「就業者」の例』と『「就業者」に該当しない例』の内容を対比して見るとわかりやすいですね。

例えば、家の近所の清掃でも、自治会の活動で地域の清掃活動をする時は「就業者」だけれども、各家庭で家の周りの清掃をする時は「就業者」に該当しないということですね。

それでは、就業者の勤務地が東京都の外(都外)の場合は、どうでしょうか。

ガイドラインでは、「事業者」の拠点について対象範囲を示す他に、就業者の勤務地についても考え方を示しています。


前出の「事業者」の拠点について対象範囲と併せて、従業者の例を考えてみましょう。

例えば、商品やサービスに不満のある人がコールセンターに電話をかけて暴言を吐く迷惑行為をした場合、どのような事業者の従業者が東京都条例の対象範囲となるのでしょうか。

①本社が都内にある事業者で、従業者が勤務する都内のコールセンターで迷惑行為があった
②本社が都内にある事業者で、従業者が勤務する都外のコールセンターで迷惑行為があった
③本社が都外にある事業者で、従業者が勤務する都内のコールセンターで迷惑行為があった
④本社が都外にある事業者で、従業者が勤務する都外のコールセンターで迷惑行為があった

上記、 ①~④ のうち、①②③の場合に条例が適用されます。

・事業者が委託元の場合の委託先の拠点
また、事業者が委託元で事業の一部を外部委託しているケースでは、委託先企業 が都内に事務所・支店・営業所などがあれば「事業者」として条例の対象になりますから、その企業のスタッフも「事業者における就業者」に当たり、カスハラ防止の対象となりますね。

たとえ委託元が条例の対象外でも、外部委託先企業が条例の対象になる場合は、委託元と委託先が連携してカスハラ対応処置を講じる必要があるということになります。

さて、『「就業者」の例』を明示されると、その就業者にカスハラ行為をする可能性を想定している“顧客”とは誰なのかが気になりますね。

ガイドラインでは、迷惑行為をする行為者=「顧客等」も定義しています。

「顧客等」とは①


 「顧客等」のうち、”顧客” の考え方は、一般的なカスタマーのイメージですね。

次に、「顧客等」の ”等” とは誰のことか見てみましょう。

「顧客等」とは②


ちょっと「顧客等」の”等”(=「就業者の業務に密接に関係する者」)のイメージがつかないですね。

・「就業者の遂行する業務の目的に相当な関係を有する者」
・「本来は関わりが想定されていないものの、就業者の円滑な業務の遂行に当たって対応が必要な者」

とはどのような人達でしょうか。

「顧客等」とは③


確かに、一般的な呼称は「お客様(=カスタマー)」ではないけれども、業務遂行に不可欠な方々ですね。

これらの「就業者の業務に密接に関係する者」も、状況によってはカスハラ行為の顧客に含まれると定義されましたので、各事業者は、直接的にはお客様ではないこれらの関係者からも従業者を守る処置を講じなければいけなくなります。

「顧客等」と「就業者」の関係


まとめ

東京都カスタマーハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)は、このあと、「カスタマーハラスメントの代表的な行為類型」「顧客等への配慮」、さらに「顧客等、就業者及び事業者の責務に関する事項」と、カスタマーハラスメントを防止するために必要な事項についての定めが続きます。

カスハラ対策法が施行されることにより、事業者は、これまでのセクハラやパワハラの取組みと同様に、「カスハラ」についても、従業員や取引先・顧客に対して、カスハラ対策法や条例で求められる対策措置を講じなければいけなくなりました。

企業のカスハラ対策の不備は、企業の業績やブランドイメージに損害を与え、場合によっては企業の法的な責任を問われることにもなりかねません。

カスハラ行為への対処方法の確立、組織的な対応、従業員への教育、取引先との連携、顧客等への配慮など、カスハラ対策措置の整備と実践が、企業の重要な経営課題となっています。

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