CCMLABO編集部がフルフィルメントを徹底解説する連載「フルフィルメントを顧客接点としてとらえる!トータルコーディネート徹底解説!」。前回はフルフィルメント業務のプロセスやアウトソースする際のメリット・デメリット、顧客接点としてのフルフィルメントの重要性を解説しました。
第2回となる今回は、実際の事例を通じてフルフィルメントをトータルコーディネートする際のポイントを解説していきます。
背景:総合通信販売業A社様フルフィルメント業務再構築プロジェクト
問題発生!顧客のクレームが増加している
A社様にはある悩みがありました。3ヶ月間、顧客のクレームの数が目に見えて増えているのです。最初に疑ったのはコールセンターの応対品質でした。しかし、応対品質に問題はなく、対応策を決められないまま3ヶ月が経過した頃、ついに顧客のCV率(コンバージョン率)が低下し始めたのです。
CV率は最も大切な指標の一つです。当然この状態を放置することはできません。そこで、A社様からアイビーシステムにこの状態を解決できないか、と相談がありました。
問題の原因は何か?顧客に声に耳を傾ける
相談を受けたアイビーシステムはまずクレームの内容の精査を実施しました。その結果、増加しているクレームの多くは以下のような内容であることがわかりました。
①A社のECサイトから商品を購入する時、選べる決済手段に不満がある。
②商品が届くのが遅い。(EC経由のみ。電話で注文を受けたお客様からはそのようなクレームはなかった)
③商品のことを聞きたいが、どこに連絡していいのかわからない。(EC経由)
決済・配送・問い合わせ。クレームの原因は全て現状のフルフィルメント業務にあることがわかりました。そこでフルフィルメント業務を再構築するプロジェクトがスタートしたのです。
トータルコーディネートのポイント1:鳥の目と虫の目でフローを整理する
フルフィルメント業務の再構築にあたってまず実施したのは現状整理でした。現状整理には2つの視点が必要です。
1つ目は大きく分けてどこに問題があるのかを特定するビジネス全体のフローを整理すること。2つ目は個々の業務フロー問題点を精緻に特定するオペレーションフローを整理すること。
ビジネス全体のフローを整理するためには全体を俯瞰する「鳥の目」が、オペレーションフローを整理するためには個々の業務に無理・無駄がないかを細かくチェックする「虫の目が」が必要です。
鳥の目:ビジネス全体のフローを整理する
A社様のビジネス全体を俯瞰したとき、お客様との接点となる箇所が3つありました。A社様の自社ECサイト、A社様が出店している他社モール(様々な出店者を集めた総合ECサイト、以下他社モール)、A社様のカスタマーセンターの3つです。
本プロジェクトにおけるビジネス全体のフロー(抜粋)
顧客クレームはいずれもECサイトに関するものでしたが、選べる決済手段が少ないというクレーム①は自社のECサイトの問題だということがわかりました。実際に自社ECのアクセスログを分析してみると決済手段が少ないことで、購入を躊躇してしまうお客様がいることがわかり、解決策として自社サイトの決済手段を増やすために決済代行のASPをリプレイスすることに決定しました。
虫の目:個々の業務のオペレーションフローを整理する
商品が届くのが遅いというクレーム②が発生してしまっている原因は個々の業務のオペレーションフローの中に隠れていました。
A社様が出店している他社モールで購入した場合、モールが手配した配送会社が商品を配達する設定になっていました。配送会社を指定していなかったのです。モールが手配した配送会社は日付指定のされていない商品に関してはある程度の商品をまとめて配送するために、注文から発送までに待ち時間があることがわかりました。
配送業務のオペレーションフロー整理(概要)
そこで、自社のECサイトやカスタマーセンター経由の注文を担当する配送会社に一元化して業務を共通化することで待ち時間を減らすように指示することにしました。
トータルコーディネートのポイント2:優先順位をつけ、段階的に実現する
いますぐできることは何か?準備が必要なものは何か?
ここまでで2つの施策を実施することが決定しましたが、タスクリストを作成すると、すぐに実施できるタスクと準備が必要なタスクに別れることがわかりました。
しかし、ビジネスは待ってくれません。CV率の低下は一刻も早く改善しなければ会社の業績に大きな影響があります。すぐできるタスクは即時実行、準備が必要なものはすぐに実行できる暫定対応を検討する必要があります。
本プロジェクトで最も問題になったのは、自社ECに新しい決済代行のASPを導入する際、基幹システムにデータを自動登録する部分を新たにシステム開発しなければいけない点でした。しかも、自社の基幹システムは業務に合わせて複雑にカスタマイズされているので、ASPとの連携に時間がかかることわかったのです。
自社のECサイトに新しいASPをなるべく早く導入することが重要と考えたアイビーシステムはASPからデータを出力し、手動で基幹システムに登録するチームを暫定的に作ることで、導入までの時間を短期化することをA社様に提案しました。
フェーズを分けて、段階的に理想の形を実現する
一般的に暫定対応というのは非効率であったり、余計なコストがかかったりすることがあります。ビジネスにおいてスピードは重要ですから一時的には仕方ない反面、抜本的な対応を並行して進めないと、長期的には利益を圧迫することになります。
暫定対応がいつまで続くのかを明確化しフェーズに分けて実施することで、だらだらとプロジェクト続けるのではなく一旦の完成形を示し、次の段階でどのような状態を実現することが重要です。
本プロジェクトではシステム開発に要する時間を3ヶ月と見積もり、プロジェクトスタートから1ヶ月間をフェーズ1とし、まず新しいフルフィルメント業務を稼働させてから、並行してさらに2ヶ月かけてシステム開発を完了させるフェーズ2を実施することとしました。
トータルコーディネートのポイント3:担当領域を明確にしつつ、のりしろを確実に埋める
フルフィルメントの各業務には担当領域があります。ECサイトは受注・決済、基幹システムは売上や在庫の管理、配送会社は商品の配送を担当します。それぞれが担当領域に特化しているため、全体を有機的につなぐためには、各業務の間に発生する隙間=のりしろを埋める必要があります。
決済代行ASPの自動連携ができるまで、基幹システムへのデータ登録を手動で行うというのは決済と売上・在庫管理の間に発生したのりしろを埋める作業でした。
複数のECサイトやテレビ、ラジオなどの広告で商品に出会ったお客様のお問い合わせをカスタマーセンターが一元管理するというのも販売チャネルと受注業務の間にあるのりしろを埋める作業です。
商品のことを聞きたいが、どこに連絡していいかわからない、というクレーム③は販売チャネルと受注業務ののりしろが埋まっていないために発生したものでした。本プロジェクトで全顧客対応業務をカスタマーセンターに集約できるよう導線の見直しと体制の強化をすることで、そのようなクレームは大幅に減らすことができました。
まとめ
フルフィルメント業務の再構築を行い、自社ECの決済ASPのリプレイス、配送会社の一元化、問い合わせ窓口の改善という3つ施策を機能させることでA社様のCV率は以前以上の水準に回復しました。決済・配送・問い合わせ。これらはクレームを生み出したきっかけであり、つまりは顧客接点そのものだったのです。
フルフィルメントを顧客接点としてとらえて、全体をトータルコーディネートすることで、ビジネスを成長させることができるといえます。